そら




<できたら>

素顔で微笑んで欲しい
できたら愛に我を忘れて

その瞬間のあなたは
花のように自然で
音楽のように優雅で
そのくせどこかに
洗いたての洗濯物の香りをかくしている

かけがえのない物語を生きてほしい
できたら
小説に騙されずに
母の胸を
父の膝を記憶に抱いて
涙で裏切りながら
鏡の中の未来の自分から
目をそらさずに

時を恐れないでほしい
できたら
からだの枯れるときは
魂の実るとき
時計では刻めない時間を生きて
情報の渦巻く海から
ひとしずくの知恵をすくいとり
猫のようにくつろいで
眠ってほしい
夢をはらむ夜を
目覚めてほしい
何度でも初めての朝に

035

_谷川俊太郎さんの詩_







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